失恋セレモニー2005年09月11日 11:28

 彼氏が大学に落っこちた。おいおいどーすんのよキミ。で、慌てて受けた私立大学に滑り込みセーフ。でもその大学じゃあ、わたしたち離ればなれだよね。
 予備校で知り合い、付き合うようになったわたしたち。でも予備校生同士って、どこか後ろめたい。よし、こうなったら二人同じ大学に行って、恋と青春を謳歌しよう! ……ところがだ。
 最初は無理して会う時間をつくってたけど、大学って意外と忙しい。できるだけ電話するようにしてたけど、大学って思ったより刺激的だ。メールくらいは毎日欠かさずと思っていたけど、大学ってかなり楽しい。お互いがそんな状態で、わたしたちは次第にすれ違い、ぎくしゃくするようになった。
 一度、ちゃんと話をしよう——そう切り出したのはわたしだ。やっぱり彼のことが好きだったし、話し合えばまたやり直せると信じていた。わたしはいまの状態とこれからのこと、わたしの想いを真剣にしたため、メールの送信ボタンを押した。数分後、メールの返事が来た。そこには一言、
「OK牧場」
 しばらく放っておいたら、「別れよう」というメールが来た。すっかり興ざめしていたわたしだが、はっと気づいた。わたしはたったいまふられたのだ。これは失恋だ。しかも、は・じ・め・ての失恋。
 わたしは思い出した。こうしてはいられない。このタイミングだ。失恋した女の子がいますべきこと。そう、“お風呂で泣く”を実行するときがやってきたのだ。
 失恋したらお風呂で泣く——それは女の子の憧れ。汚辱にまみれた失恋という現実を、美しい思い出に昇華させるための儀式。浅い湯船に浸かり、ひざを抱え、BGMはもちろんドリカムだ。
 季節は八月。いつもはシャワーで済ませてしまうところを、浴槽を丁寧に掃除し、ぬるめのお湯を張る。湯量の設定を間違えてちょっと多めに入っちゃったけど、ま、いっか。
 いよいよそのときがやってきた。CDラジカセを浴室に持ち込み、再生ボタンを押す。セットしたのはベスト盤のディスク2。ストリングスが静かに空間を満たしていく。途端にメランコリックな気分に落ちていく。わたしは俯いたまま掛かり湯を済ませ、右足から湯船に入った。
「……お、っほぉ」
 思わず声が出る。喉元まで浸かり、大きく深呼吸をする。久しぶりの湯船はチョー気持ちいい。足を伸ばし、目を閉じる。長湯になりそうだったので、浴室乾燥機を涼風運転しておいた。顔に触れる冷たい風が心地よい。ドリカムを軽く口ずさんでみる。ほのかなエコーがいい感じだ。ちょっと真剣に歌いこんでみる。あーカラオケ行きたいな。憂さ晴らしにはちょうどいいかも。あとで恵美子に電話してみよっと。「サンキュ」まで歌って、さすがにのぼせてきたのでお風呂から出た。なにか大きな忘れ物をしているような気がしたが、冷房の効いた部屋に入った途端、そのことも忘れた。
 それ以来、わたしの失恋セレモニーはカラオケになった。


(第1回WEBダ・ヴィンチ読者参加企画「心にくいこむ短編小説」/ボツ)

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